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ブログ/2020-09-24

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世阿弥の風姿花伝を読む

世阿弥の能楽書「風姿花伝」は有名です。特に、能を極めるには、年齢が上がるにしたがって明確なステップを登るべきであることを端的に教えている前段部分が有名です。その部分を現代語に意訳してみます。意訳に際しては、ネット上でshikinobi.com/fuushikadenを参考にしました。20歳前の部分は省略です。

24,25歳ごろは、一生の芸能の位が定まる分れ目、かなめの所です。「良い若手が出てきた」と期待され、本人もその気になって舞い上がります。でも、ここは、物珍しさの魅力なのだと理解し、精進を怠るな、と教えます。慢心を控えよ、です。
34、35歳ごろは、全盛を極めます。この時期に大した名声が得られないようでは、一見良さそうであっても「真実の花」は会得できない、と言います。ここで名声を得られないようでは、能を極めたと言えないそうです。
45、46歳ごろは、能の演じ方ががらりと変わり、どうしても魅力が失せていきます。この頃は、良い助演者を持ち、助演者に花を持たせるくらいがちょうど良い。年甲斐もなく俊敏に動き回っては、見た目の花が無くなる、とのことです。
そして50歳を超えてからは、「麒麟も老いては駑馬に劣る」ということで、少な少な、が良いという。華々しいところはほとんど若いものに譲り、自分は無理のないところでしっとりとした彩を込めて演じると、老いてなお花は盛りに見えるとのことです。

これは、能を極めるお話ですが、土壌物理学者が風姿花伝に学ぶとすれば、どう解釈すればよいでしょう?私なりの解釈を記載してみます。

24、25歳ごろは、大学院生時代です。学会発表にデビューし、会場からベテラン研究者の質問を浴びます。指導教官に教えられたままを発表するだけでなく、何か独自性オリジナリティーを発揮することが肝要です。欠点は沢山あっても、「これは新しいぞ、期待しよう」という評価を得ることができます。研究者には「物珍しさの魅力」は大切なのです。
34,35歳ごろは、博士号も取得し、幸運に恵まれた人は大学の助教、講師、さらには准教授のポストを得ることもできます。期限付き有給研究員に留まる人、海外留学中の人もいるでしょう。人それぞれですが、研究内容は最も充実するときです。ここまでに論文が1本も出せていないようでは、学を極め得るのは難しいぞ、という次第です。学会での評価も得なければなりません。
45,46歳ごろは、まだ自分の論文に汲々としているようでは「見た目の花が無くなる」そうです。ここでは、若手の共同研究者が必要ですし、論文も共著者に花を持たせてどんどん発表しなければなりません。後継者育成も大事です。
そして、50歳を超えてからは、無理しているなと思わせないような、控えめが良いそうです。しかし、無理のないところではしっかり「彩を出せ」という教えです。「彩(いろどり)」とは、我々で言えば「学風」のようなものでしょうか。

さて、今日の平均寿命が80を超えてくるような時代、以上の年齢区分には、多少の修正が必要と思われます。昔の定年が50歳ぐらいで、今の定年が65歳ぐらいと仮定すると、35歳→40歳、45歳→55歳、50歳→65歳に読み替えた方が良さそうです。24,25歳ごろのことは、今と昔であまり変わらないことにしましょう。そうすると
24,25歳は学会デビューで注目されましょう。オリジナリティーが大切。慢心に注意。
40歳ごろは研究で最も充実した時を迎えてください。
55歳ごろは後継者、若手の育成を心掛けましょう。
65歳頃は、活躍は控えめとし、自分の学風を確立しましょう。
という解釈になります。

さて、風姿花伝を土壌物理学者に当てはめて解釈してみました。ここから学ぶべきことは何でしょうか?何だか、当たり前のことを言われているような気もします。でも、もしかすると若手研究者が読むと、目標とすべき事項に気づくかもしれません。私自身は、若い時にこの「風姿花伝」を読み、何となく「極める」ということはこういうことなのか、と納得した覚えがあります。年齢を重ねるとともにただひたすら上昇をめざす、というのとは違った美の追求に、心を打たれたのです。そんな思いを、誰かにお伝え出来たらいいな、と思う次第です。(M)

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