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ブログ/2017-06-10

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歴史は逆戻りする

ファオスという暗渠を利用した排水,灌漑手法は果たして画期的な技術なのだろうか.西欧で発達した暗渠排水技術は,水田には適用できなかった.そのような中で我が国独自に発達した排水技術の頂点が組み合わせ暗渠であった.そして,この組み合わせ暗渠を無料で多くの農家に使ってもらえるよう農林省は特許をとった.

 我が国の水田暗渠排水は,粘質土水田を対象として東大の農地研,農土試の土地改良第5研等の研究者の精力的な研究により土中の水移動の実態が明らかにされ,1970年頃までに組み合わせ暗渠を含む排水技術が確立した.排水の研究は1970年代後半に始まった転換畑(水田畑作)の研究に引き継がれ,組み合わせ暗渠は転換畑でも十分機能することが確かめられた.

 一方,転換畑の研究を行う中で,粘質土では無降雨条件では作土のきわめて浅い部分が非常に乾燥してしまうという問題が指摘されていた.これは,畑地面積の5割を超える黒ボク土とは異なり下層土からの上向きの水移動が非常に遅いという土の特性に起因する.そこで,暗渠を使って転換畑の灌漑を行う試みがあった.この灌漑法は国際的に使われている毛管現象を利用した地下灌漑とは異なり,暗渠管から水を供給し,乾燥亀裂を通して地表に水を溢れさせることで作土を十分に湿らす方法であった.しかし当時は,暗渠排水を強化するために,いかに乾燥亀裂の発達を促進させるかが主要な課題であり,せっかく発達した乾燥亀裂の役割を減ずる可能性のある暗渠灌漑は主要課題とはならなかった.それでも,1990年には「地下かんがいの手引き」が構造改善局から冊子として報告されている.

 ところで,ファオスの構造を見ると,どうしてこれが特許に値するのか不思議である.数10年前から類似の方法で暗渠灌漑が行われており,新規性はないように思われる.しかも,民間と共同で特許を取得していることから,普通に考えれば,農家に特許料を支払わせて普及しようとしているのはどうしてだろうか.農水が目指す生産コストを低下させることに逆行している.

 このファオスを使った研究が学会誌等に割合と頻繁に報告されている.それを読んで感じることは,暗渠灌漑もしくは一定地下水位の維持によってどのくらいの水が作物に使われているかの記述がほとんどなく,適用効率が不明なことである.一方,肝心の作土に十分水を行き渡らせるための技術は,地下水位を任意の深さで一定に保つことで置き換えている.粘質土転換畑においては,地下水位の制御は不可能なこと,また地下水位それ自体が作物の生育を反映しないことは,土壌物理実験と栽培の現場を経験した研究者にとっては当たり前のことである.したがって,ファオス導入により減収した報告がみられるのも当然である.

 つまり,ファオスを考案した研究所において,土中水の移動という「土の科学」が1980年代から全く進歩していないばかりか,研究所で長年培われてきた研究成果がレビューされずに,逆に研究レベルが低下していることである.研究機関が転換畑の地下水位を栽培に適した値で維持,制御できると主張することは看過できないことである.基礎研究をないがしろにする研究所の体質が如実に現れている.一方,ファオスを研究に使っている研究者には,先ず疑って始めよと言いたいし,飽和・不飽和の土中水の移動について最低限の勉強をして欲しいというのが,土壌物理に長年携わってきた私たちの願いである.(H) 

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